【特集、お召し列車Vol.6】D51 838号機<鳳凰を纏う堂々たるお召機>
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昭和46年、1971年4月21日。
中国山地を越える伯備線に、
ひと目で「普通のデゴイチではない」と分かる一両がいました。
煙突の上を覆う、大きな集煙装置。
巨大な除煙板。
磨き上げられた漆黒の車体。
そして、その除煙板には金色に輝く「鳳凰」。
その機関車こそ、
昭和天皇・皇后両陛下のお召列車を牽引した、伯備線屈指の名機「D51形838号機」です。
D51形は昭和11年(1936年)に登場した、
国鉄を代表する貨物用蒸気機関車。
国鉄の前身である鉄道省だけでも1,115両が製造されました。
以前、498号機の記事でも触れましたが、
すべてのD51が同じ姿をしていたわけではありません。
製造時期による違い。
配置された地域による改造。
使用線区に合わせた装備。
長い年月の中で、
それぞれのD51に「個性」が生まれていきました。
そして838号機は、その個性が非常に分かりやすい一両でした。
1943年、鷹取工場で製造。
戦時設計へ移行していく時期に誕生した、
いわゆる”準戦時形"にあたる一両です。
1955年には新見機関区へ。
ここから838号機は、伯備線の機関車として独特の姿へ変わっていきます。
その象徴ともいえるのが、集煙装置です。
838号機には新見機関区時代、煙突上に大型の集煙装置が取り付けられました。記録では1960年に集煙装置を装備し、翌1961年には通票受取装置も追加されています。
集煙装置とは、その名の通り蒸気機関車から吐き出される煙を集め、煙の流れを制御するための装置。
特にトンネルの多い山岳線区では、煙が機関室へ巻き込めば乗務員の視界を奪い、乗務環境を著しく悪化させます。
そこで煙突の上を大きく覆う装置によって、煙をできるだけ後方へ流す工夫が施されました。
通常の丸い煙突だけを載せたD51と比較すると、その違いは一目瞭然。
まるで煙突に巨大な「帽子」を被せたような姿です。
この集煙装置こそ、伯備線を走った838号機のシルエットを決定づける装備のひとつでした。
さらに838号機には"タブレットキャッチャー"も装備。
単線区間で使用される通票を、
走行中に受け渡すための装置です。
つまり838号機は、
ただの「標準形D51」ではありません。
巨大な集煙装置に、通票受取装置。
新見機関区で過ごすなか、838号機は伯備線の厳しい運用を物語る、重厚な姿へと変わっていったのです。
そして1971年。
島根県で開催された第22回全国植樹祭への行幸啓に伴い、4月21日、米子―岡山間にお召列車が運転されました。
その本務機として選ばれたのが、
D51 838号機。
普段は煤と煙にまみれ、重量貨物を牽いて中国山地を越えていた機関車が、この日だけは徹底的に磨き上げられました。
そして838号機最大の特徴が加わります。
除煙板に取り付けられた、
"金色の鳳凰"
黒いデフレクターの中央で翼を広げる鳳凰。
車体には白い装飾が施され、
前面もお召機として美しく整えられました。
838号機のお召し仕様では、
鳳凰のレリーフや白線など特徴的な装飾が確認されています。
ここが838号機の面白いところです。
華麗な鳳凰。
重厚な集煙装置。
山岳線用の実用装備。
「美しさ」と「無骨な装備」が、
一つの機関車の中に同居し、D51の深みを増してる気がするんです。
もちろん、お召列車だからといって、838号機の本質が変わったわけではありません。
その本分は貨物機。
中国山地の勾配に挑み、重量列車を引き上げ、ときには布原で有名な「D51三重連」の一員として走った機関車でした。
そんな日常の積み重ねがあったからこそ、
お召列車という最高峰の任務を任されたのでしょう。
鳳凰を纏っても、やることは一つ。
列車を、安全に。
そして確実に目的地へ送り届ける。
お召列車牽引から約2年。
”1973年4月1日”
伯備線から蒸気機関車が姿を消すにあたり運転された、
SLさよなら列車。その先頭にも838号機が立ちました。
お召列車を牽いた機関車が、
今度は伯備線SL時代の最後を飾る。
838号機らしい、劇的な幕引きでした。
その後浜田機関区へ移ったのち新見へ戻り、
”1974年2月19日に正式廃車”となっています。
現在も838号機は新見市の井倉洞で保存され、
集煙装置。
タブレットキャッチャー。
準戦時形としての面影。
そして、金色の鳳凰。
1,000両を超える仲間を持った「デゴイチ」の中でも、
838号機には838号機だけの姿がありました。
D51 838号機。
伯備線という厳しい現場に合わせて姿を変え、
その実用一点張りの巨体に鳳凰を纏って、
一日だけ日本最高格式の列車の先頭に立った。
だからこそ、この機関車のお召し姿は、
今なお新見で愛され大事に保存される、
特別な名機と言えるのではないでしょうか。
(マイミー)

