【みんな大嫌い?】鉄道員を苦しめた“クレペリン検査”延々と足し算する本当の理由

【みんな大嫌い?】鉄道員を苦しめた“クレペリン検査”延々と足し算する本当の理由

マイミー

鉄道会社の採用試験を受けたことがある人なら、
この名前を聞くだけで、
ちょっと嫌な記憶が蘇るかもしれません。

「内田クレペリン検査」。

紙いっぱいに並んだ数字。
隣り合う一桁の数字を足して、
答えの一の位だけを書いていく。

そして1分経つと、
「はい、次!」
次の行へ。

また足す。
また足す。
ひたすら足す。

前半15分。
休憩を挟んで、後半15分。

合計30分。

やっていること自体は、
小学生でもできる足し算です。

なのに、
これが妙にしんどい。

途中から数字が数字に見えなくなり、
鉛筆を持つ手も重くなってくる。
鉄道を目指した人なら、

「もう二度とやりたくない」

そんな感想を持った人も、
少なくないのではないでしょうか。

しかし。

この検査、
単に“計算が速い人”を探しているわけではありません。

そもそも、
内田クレペリン検査は
ドイツの精神医学者エミール・クレペリンの研究に着想を得て、
心理学者・内田勇三郎が日本で開発したもの。

そして鉄道との関係は、かなり古い。

戦後間もない1948年には、
国鉄で運転適性検査として本格的に導入されています。

つまり、
古くから鉄道員にとってクレペリンは、
かなり昔から“お馴染み”の存在だったわけです。

では、
あの数字の海から何を見ているのか。

ポイントは、
何問解けたかだけではありません。

全体の作業量。
間違い方。

そして、
1分ごとの作業量がどう変化したか。

いわゆる「作業曲線」です。

最初は勢いよく進む。

少し落ちる。

また持ち直す。

あるいは、
途中で大きく乱れる。
単純な足し算を一定時間続けさせることで、
質問票では見えにくい
“作業するときのクセ”が現れてくる。

だから、
一桁の足し算なんです。

難しい計算にしてしまえば、
数学力や知識の差が入り込む。

逆に簡単すぎれば、
負荷にならない。

誰でもできる。
でも、
30分続けると少しキツい。

その絶妙な単純さが、
この検査のミソなんです。

そして、
これを鉄道の仕事に置き換えると、
なんとなく理由が見えてきます。

信号を見る。

速度を確認する。

時刻を確認する。

計器を見る。

ホームを見る。

戸閉めを確認する。

鉄道の現場は、
同じ確認を何度も何度も繰り返します。

普段は何事も起きない。

それでも、
「いつも通り」の中に紛れ込んだ異常を、
見逃すわけにはいかない。
華やかに見える運転士や車掌の仕事も、
安全を支えているのは、
こうした地味な確認の積み重ねです。

もちろん、
クレペリンだけで
「この人は運転士向き」
などと単純に決められるものではありません。

鉄道会社では、
ほかの適性検査や身体機能検査などと組み合わせて
判断されます。

さらに面白いのは、
この検査が今も年間約70万人に使われていること。

「そんな昔ながらの紙と鉛筆の検査が、
まだ現役なのか?」
と思うかもしれません。

でも、
質問に答える性格検査と違って、
クレペリンは実際に“作業をさせる”。

本人がどう答えたいかではなく、
一定の負荷をかけたとき、
作業量や誤答がどう変化するのかを見る。
そこに、
この検査が長く残ってきた理由があります。
(私も大嫌いでした。)

しかも、
鉄道の適性検査は
クレペリン一発で決まるものではありません。

たとえば現在の近畿日本鉄道では、
運輸部門でクレペリン検査のほか、
視野、両眼視機能、注意配分、反応速度なども検査しています。

つまり鉄道会社が見たいのは、
単純な“頭の良さ”だけではない。

安全に関わる仕事を任せるうえで、
いくつもの角度から適性を確認しているわけです。

そして受ける側からすると、
これがまた厄介。

「速ければ勝ち」
ではない。
「全部正解なら勝ち」
でもない。

普通の筆記試験のように、
100点という分かりやすいゴールが見えない。

だからこそ、

「これ、何を見られてるんだ……?」

という、
独特の気持ち悪さが残ります。

紙いっぱいの数字。

試験官の「はい、次!」の声。

そして、
ひたすら動き続ける鉛筆。

私を含め、鉄道員を目指した人たちを、
何十年にもわたって数字の海へ沈めてきた
内田クレペリン検査。
MR.DIMERの読者の方にも御経験者が多い事でしょう。

あの延々と続く足し算は、
「あなたは計算ができますか?」
を聞いているのではありません。

むしろ、

「単調な作業が続いたとき、
あなたはどんな働き方をしますか?」
そこを見ている。

そう考えると…

みんな大嫌いな、
あの数字だらけの一枚の紙。

実は、
恐ろしく“鉄道らしい”検査と言っても過言ではありません。

(マイミー)

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