【国鉄型魔改造列車特集Vol.9】72系・“中身は昭和、顔は新型”72系が歩んだ異色のシンデレラストーリー

【国鉄型魔改造列車特集Vol.9】72系・“中身は昭和、顔は新型”72系が歩んだ異色のシンデレラストーリー

マイミー

72系というと、どんな姿を思い浮かべるでしょうか。
茶色い車体に切妻の前面。吊り掛け駆動の音を響かせながら、首都圏の通勤輸送を支えた、いわゆる「ゲタ電」。

ところが、その72系の中には「これ、本当に72系?」と言いたくなる車両がいました。

話は戦後まで遡ります。

72系の源流は、戦時設計で大量に製造された63系です。20m級4扉の大型車体で、とにかく大量の乗客を運ぶことを優先した電車でした。

戦後も輸送力不足を補うため使われましたが、1951年の桜木町事故をきっかけに安全対策が進められ、63系は改造のうえ72系グループへと整理されていきます。

その後、1952年からはモハ72形・クハ79形の新製車も登場。

そして1956年、72系は大きく姿を変えます。
登場したのがモハ72形・クハ79形920番台です。

全金属製の軽量車体となり、従来の72系に見られたシル・ヘッダーもなくなりました。アルミサッシの窓を備えた外観は、それまでの旧形国電とは明らかに雰囲気が違います。1956年度の量産先行車9両に続き、翌年度には68両が製造され、72系の中でもひときわ近代的な一群となりました。

ただし、走行機器は従来の72系。
吊り掛け駆動、抵抗制御です。

ここから72系の「見た目と中身が合わない」歴史が始まります。

さらに強烈だったのが1974年から仙石線へ投入されたアコモデーション改良車です。

古い72系の台枠や走行機器を生かしながら、車体を当時の103系に近いものへ更新。モハ72形970番台とクハ79形600番台が誕生しました。

高運転台の前面、ユニットサッシの側窓。車内も当時の新性能電車に近いものへ改められ、仙石線の寒冷地事情に合わせて半自動扉も備えました。

見た目だけなら、もう103系です。
ところが床下は72系のまま。

MT40系主電動機による吊り掛け駆動を残していました。
つまり「中身は昭和、顔は新型」。

4両編成5本、計20両が仙石線で使用されます。
普通なら、この時点でかなりの魔改造です。

ところが72系の物語は、ここでは終わりません。

1985年、仙石線への103系投入で役目を失った970番台・600番台に、今度は川越線電化という新しい仕事が回ってきました。

川越―高麗川間は輸送量の関係から3両編成が必要でした。一方、仙石線を離れた車両は車体更新からまだ10年ほど。車体そのものは十分使える状態です。

ならば、この車体をもう一度使おう。

国鉄らしい判断でした。

そこで国鉄は、今度は足回りまで新性能化します。

103系の予備品や101系の廃車発生品などを活用し、主電動機や台車などを交換。旧性能電車だった72系は、ついに新性能電車へ生まれ変わります。

こうして誕生したのが103系3000番台です。

クモハ102・モハ103・クハ103の3両編成5本、計15両が1985年の川越線電化に合わせて登場しました。

72系なのに103系のような車体だった車両が、ついに本当に103系になったわけです。

しかも同じ1985年、山手線では新型の205系がデビューしています。片や軽量ステンレス車体の新世代通勤電車。その一方で川越線では、1950年代の車両をルーツに持つ72系改造車を103系へ仕立て直して使う。

この対比も、国鉄末期らしいところでしょう。

そして残ったモハ72形970番台5両も、1986年に電装解除されてサハ103形3000番台へ改造。青梅線で使用されたのち、1996年の八高線八王子―高麗川間電化に合わせて川越へ戻り、103系3000番台に組み込まれて4両編成となりました。

JR東日本へ継承後にはAU712形による冷房化も実施され、72系時代から受け継いだ半自動扉も引き続き活用されました。

最後まで残った編成は2005年まで川越線・八高線で走り続けています。種車の中には1950年代前半に製造された車両もあり、台枠まで含めれば半世紀以上を走った車両がいたことになります。

ここが、この車両の面白いところです。

もともとは戦後の”旧形国電”。

それが車体を替えられ、仙石線へ渡り、さらに足回りまで替えられて103系となり、21世紀まで走った。
もちろん920番台と、後の970番台・600番台は別のグループです。

ただ、72系という系列全体で見れば、旧形国電を少しずつ近代化していった先に、この970番台・600番台、そして103系3000番台という“究極形”が現れたとも言えます。

新車を造るのではなく、使える車体は使う。
使える部品も使う。
そして必要なら形式まで変えて使う。

国鉄の改造車にはいろいろありますが、ここまで姿も中身も変わりながら生き延びた例は、そう多くありません。

72系。

「ゲタ電」から103系へ。

まさに国鉄型魔改造列車の中でも、異色のシンデレラストーリーだったのです。
(マイミー)

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