【惜別。500系新幹線電車 Vol.2】「あの顔」はこうして生まれた。15mノーズの誕生
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<ジェット戦闘機か、生き物か>
500系を500系たらしめているもの。
それは何と言っても、
全長27mの先頭車のうち、
実に15mを費やした、
あの鋭いロングノーズでしょう。
第2回は、
新幹線史上、唯一無二。
"顔"の誕生秘話です。
■敵は「トンネル」
前回触れた通り、
500系の使命は300km/h営業運転。
しかし、山陽新幹線には
東海道区間とは異なる難敵がいました。
トンネルです。
山陽新幹線の約半分はトンネル区間。
高速でトンネルに突入した列車は、
出口側で「ドン」という衝撃音、
いわゆる"トンネル微気圧波"を発生させます。
速くなればなるほど、この現象は激しくなる。
つまり500系の顔は、
"かっこよさ"のためではなく、
空気の壁と戦うために、
あの形にならざるを得なかった、ということ。
15mという長さは、
航空宇宙技術研究所のCFD解析
(コンピュータによる流体シミュレーション)から
導き出された数値。
車体断面も徹底していて、
裾や荷棚部分を削り込み、
300系より1割小さい断面積10.2㎡を実現。
結果、車体は他に類を見ない
"円筒形"となりました。
■ドイツ人デザイナーの手腕
この空力的要求を、
あれほど美しい造形にまとめ上げたのが、
ドイツの工業デザイナー、
アレクサンダー・ノイマイスター氏。
ドイツの高速列車ICEなどを手掛けた、
高速鉄道デザインの第一人者です。
技術の産物であるはずの形状が、
どこか生命感すら漂わせているのは、
氏の手腕あってこそ。
1996年にはグッドデザイン賞、
1998年には鉄道友の会ブルーリボン賞と、
デザイン・車両の両面で高い評価を受けました。
■カワセミとフクロウ
500系を語る上で欠かせないのが、
"生き物たち"の存在です。
開発に携わったJR西日本の技術者が、
日本野鳥の会の会員だったことから、
自然界の知恵が随所に活かされた、
と言われています。
水しぶきをほとんど立てずに
水中へ飛び込む、カワセミのくちばし。
その形状が、
空気の壁を切り裂くノーズ形状の
ヒントになったという逸話は、
バイオミメティクス(生物模倣技術)の
代表例として、あまりに有名です。
そしてもう一羽、フクロウ。
音もなく獲物に迫る、
あの静かな羽ばたきの秘密"風切羽"は、
翼型パンタグラフの支柱に並ぶ
ボルテックスジェネレータ(渦流生成器)として
応用されました。
ちなみにこのパンタグラフ、
ダンパの製作はF1のショックアブソーバーで
実績のあるショーワに依頼され、
開発試験では、
なんとホンダ・プレリュードの屋根に
実物を載せて走らせ、
揚力を測定したのだとか。
鳥の翼、F1、そして市販車。
新幹線の常識の外側から、
あらゆる知恵をかき集めて生まれたのが、
500系という車両でした。
■美しさの、代償
ただし、この"完璧な形"には
代償もありました。
運転席は大きく後退し、視界は制約され、
先頭車の乗車口はわずか1箇所。
円筒形の車体は、
窓際の空間をわずかに圧迫し、
先頭車の定員は300系より12名減少…。
このあたりの"歪み"が、
後に500系の運命を左右していくのですが、
その話は、もう少し先に取っておきましょう。
次回、Vol.3は、
「円筒形車体の光と影」。
技術の到達点と、その裏に潜んでいた課題。
500系の"二面性"に迫ります。
どうぞお楽しみに。
(Mr.DIMER編集長)

