【特集、去り行く東海顔 vol.6】"修学旅行専用"は資金調達の建前?
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<修学旅行専用列車、ではなく修学旅行専用車両の155系(159系)>
1940年代末のベビーブーム世代が中学生となり、
修学旅行需要が急増したことに伴い、その需要に対応すべく
153系電車をベースとして開発・製造されたのが1959年登場の155系"修学旅行専用電車"。
■155系誕生の背景
航空機の利用が大衆化されておらず、高速道路網の未発達、新幹線も開業前の当時、
関東からは、京都・奈良方面、
関西からは、東京方面への旅行が一般的だった中学生・修学旅行の移動手段は
専ら東海道本線・中央本線・関西本線の活用に限られ、
需要の集中とベビーブーム世代一学年の移動を支えるには、
定期列車では賄いきれない状況となっていました。
また、別途、"修学旅行専用列車"を仕立てるにも、
当時の国鉄自体が、急増する旅客需要に対応し切れておらず、
旧型車両のかき集めで専用列車を用意するも、
旧式の設備故、苦痛の長旅を強いられる状況、
もとより、安全装備面の不足が生徒による事故を引き起こす要因となっており、
需要への対応、
そして、
安全かつ円滑な運行の実現に向けて、
その対策は急務だった、と申せましょう。
■徹底的な修学旅行専用仕様
1両当たりの座席定員は153系のそれと比較して、およそ1.2倍。
大人数を一度に輸送することが目的とあって、
座席定員の増加は至上命題。
成人と比較して体格の小柄な中学生の利用を想定したことから、
座席配置は、3+2列を採用。
座席が1列増えるわけですから、横幅は窮屈となるものの、
前後ピッチは153系と同様となり快適性を確保しています。
また列車の特性上、
乗り降りの機会も通常の旅客列車と比較すれば
少ないことも想定し、客用扉を狭め(153系 1,000mm→155系 700mm)
有効スペースを確保しています。
車内設備は、
修学旅行生(生徒)に特化されている点が特筆されます。
・着脱式の大型テーブル…学習や食事に用いる
・傘立ての設置(通路側)
・急病人用簡易ベッド化構造(客室端部の2人掛けボックス席)
・荷物棚の増設…お土産などの荷物が増加することに配慮
・水筒への水汲みを考慮した飲料水タンク設置
昼行のみならず、
夜間走行(夜行)も想定した上で、
・仮眠用ヘッドレストの装備
・洗面台の拡大…利用頻度が高くなる想定、2名並んで利用
"大人数が同時に使用する"前提の設計故、
・男子用小便器の増設
・ゴミ箱の大型化
また、引率する教員による車内放送を想定し、
乗務員室助士席側にテープレコーダーを設置。
極めつけは、教育的観点から
列車利用中の清掃を生徒自身にさせる目的で、
清掃用のホウキとチリトリまで設置されていました。
なお、
外見は、
153系電車をベースとしつつも、修学旅行シーズン以外での広範な運用を可能とすべく、
狭小トンネルの点在する中央東線を走行することを想定し、
編成全体での低屋根構造を採用。
その一方で、
調達資金の関係で削られた装備もあり、
スカートの省略、
特に乗り心地を左右する台車にあっては、
空気バネ台車ではなく、通勤電車向けの金属バネ台車を採用するなど、
"予算"の都合が垣間見える一面もあります。
あまりに画期的な車両故に、
本記事のタイトルに行き着くまで前書きが長くなったのですが、
当時の国鉄の基本的な考え方にある、
「標準化」
「広域転配」
とは、根本的に異なる設計思想が反映された155系"修学旅行専用電車"。
なぜここまで、専用設計にこだわって155系を設計・開発したのか。
考察してみたいと思います。
■「利用債」というキーワード
155系を製造するにあたって採用されたのは、当時の資金調達手法である「利用債」です。
当時の国鉄には車両を増備する予算が足りず、銀行や日本交通公社などから資金を借りる必要がありました。
ここで一つの仮説が浮かび上がります。
「これは修学旅行のためだけの特別な車両です。だから、修学旅行の収益で確実に返済できます」
という明確な説明(エビデンス)を、融資側に示す必要があったのではないか、という点です。
■あえて「汎用性」を捨てた?
国鉄の本音としては、153系のような汎用車を増やし、閑散期は一般急行に使いたい。
しかし、それでは「修学旅行の収益を返済に充てる」という紐付けが曖昧になります。
そこで、あえて3+2列という「一般客には不評だが、定員は稼げる」極端な座席仕様、
設備面も、"修学旅行に特化した装備"にすることで、
「この車両は100%修学旅行ビジネスのための投資対象である」
という根拠を車両設計に反映させた。
そう考えると、"修学旅行専用"設計の数々も、
出資を成立させるための「合理的な設計」だったと合点がいくものではないでしょうか。
サービス向上の裏側にあった、国鉄の執念とも言える資金調達劇。
「専用設計=財務戦略説」
編集長の勝手な妄想と想像に読者の皆様を巻き込んでしまい甚だ恐縮しております。

